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2018-03-15

「いい設計とは何か?」文学部建築学科出身⁉の設計士が考えるその答えとは?

SAHRE on

JIMI CLAUDE OFFICE株式会社(ジミクロウド事務所)
代表 岡本 健(オカモト ケン)さん
建築、インテリア、店舗などのデザイン、監修及びコンサルタント業務

大工さんの姿や建築家のドキュメンタリーが今の仕事の素地になっている

小学生の頃、大工さんが実家の敷地内に新しい家を建てていたことがありました。着工してから気付けば3年間も工事をしていたのですが、それを暇さえあれば眺めていたのです。
最初は、モノをつくっている様子や作業をしている様子、何かができあがる様子に心を奪われたことを覚えています。
大工さんの細かい手仕事にばかり気を取られていたせいか、いつの間にかすごく大きな空間ができあがっているのを目の当たりにして衝撃を受けたのです。なんといいますか、いつの間にこんなに壮大なことをやっていたのかと。
中学生の時、テレビで建築家フランク・ロイド・ライトのドキュメンタリー番組を見たことも影響しているかもしれません。仕事の雰囲気とか、図面を描く姿とか、使っている見たこともない精密そうな道具など、それをかっこいいと感じました。そういったことが素地になっているのかと思います。
でも進学した高校は普通科でした(笑)。中学校ではあまり勉強せず、そのことを後悔していましたので高校ではしっかりと勉強しました。当たり前のことなのですが勉強した分は確かに成果が出るのです。それが楽しくて、勉強以外のことも含めいろいろなことを吸収しました。

大学進学を前に、自分がやりたいことって何だろうと考えるようになり、前述のような素地がきっかけになったのか、進学先に建築学科のある大学を選び、今の道へと進んでいきました。それでも建築以上に村上春樹や宮本輝などが描く小説の世界への憧れが強く、自分では「文学部建築学科」にいるようなキモチでいました(笑)。

建築専門分野よりも、映画や工業製品から刺激を

今もそうですが、書店では建築の専門誌などにはなかなか手が伸びません。音楽や映画の中のワンシーン、絵画や写真集など、そういうものに触れたときにモチベーションが上がる傾向があります。
アップルの製品やドイツの工業製品、車や飛行機などにもとても刺激を受けます。建築、インテリアから直接アイデアを得ることもありますが、他の分野の中にあるエッセンスを取り入れて「このアプローチを仕事に用いることができないだろうか」と心を動かされることが多いです。


友人の描いた飛行艇の画もインスピレーションのきっかけのひとつ

設計という仕事について

僕等の仕事は「設計」だと思っています。「設計」と「デザイン」とは本来同じ意味だと考えています。しかし一般的に「デザイン」ということばは、感性や芸術的な側面ばかりを強調されて使われているような気がしています。それを自分たちの仕事に当てはめると少し違和感を感じてしまうのです。
僕等の仕事は、もっと数値や数字に基づいたもの、誤解を恐れずに言うと、芸術などとはほど遠いところに位置したものだと思っています。
法律や予算、お客さまの要望といった条件を満足させるようにするにはどうすれば良いか、手に入りやすい製品、流通している製品をいかに活用するか、といった事柄が主軸にあると考えています。ですから「自分の内面から湧き出るものを表現する」というのとはずいぶん違うと思っています。
もちろん感性やセンスは、自分の中でいつも磨いていかなくてはならないと思っています。それが最大の武器になるとも分かっていますが、一方で手放しに表に出すことをためらう気持ちもあります。

「整理すること」

大切にしていること、僕が多くの時間を費やしていること、それは「整理すること」です。お客さまの要望をひとつずつ整理していく。それを線にして図面にしていく。
その一本一本の線に意味のないものは決してなく、どの線にも図形にも必ず意味がある。それを積み重ねて空間をつくりだしている。そういう感じです。
実はすごく苦手なことなのですが、そういった現実的なことを並行して考えながら整理していくことが求められる仕事だと思います。もちろん、設計の仕事をするには造形やもののバランス、質感、厚み、奥行きなどに対する感覚も磨いていかなくてはなりません。
常に積み重ねてやっていることは「整理すること」ですが、仕事だけではなくて生活の中でも僕は整理魔で、身の回りが片付いていないと落ち着きません(笑)。
一方で、あまり仕事と生活は分けていません。「全く整理できていないじゃないか」と言われてしまいそうですが、私生活の中で仕事をしたり仕事の中で私生活をしたりしています。そうすることで、仕事と生活が相互に刺激しあっているのかもしれません。

「混ぜてしまうこと」

学生時代に尊敬する先輩に「良い設計とは何か」というようなことを聞いたことがあります。その時かえってきた先輩のことばが今でも好きで大切にしています。
彼の答えは「カタチから出来たものなのか、理屈から出来たものなのか、どちらなのかよくわからないものが一番良い」というものでした。
様々な要件を徹底的に整理して理屈を積み重ねた結果できたものなのに、心にうったえかける魅力、理屈だけではないものが備わっている。どちらが主軸なのかわからない、そういうものを僕はつくりたいと思うようになりました。
仕事の仕方についても、つくるものについても、徹底的に整理する視点と、理屈ではない感覚的な視点とを混ぜてしまう。理屈と感覚、両方の視点から仕事にアプローチしていきたいと考えています。

境目を曖昧にする 《Bar Cenacolo/チェナーコロ》

ここはすごく狭い店舗ですが、できる限り広く見せることに力を注ぎました。
間口の狭い物件を広く長く見せるという挑戦は以前も経験していましたが、このお店は更に間口が狭く条件の厳しい物件でした。
また、お客さまからはカウンターや収納の中の棚の寸法、動線、予算、スケジュールも含め明解かつ厳密な指示をいただきました。
初めて現場に足を運んだ時、外にとても緑の豊かな路地があることに気がつきました。この路地とお店が続いているように見せることができたら、広く見えるかもしれないと。
そこで、店の突き当たりの壁一面を鏡にすることで、まるでその先にもカウンターが続いて、更にその先にまた路地が続いているように見せる工夫をしました。

お店と外の境目、入り口や突き当りがどこなのかわからなくなるような、入った瞬間にお店の全貌を捉えきれず目眩をおこすような、そんなことができたらいいなと、そこでお酒を飲めたら楽しいだろうなと思いました。
お店ができて実際にカウンターに座ってみると、右を見ても左を見てもガラスと鏡に写り込んだカウンターの照明が緑の路地の中に向かってどこまでも続いていくように見えるのです。実際の面積よりもずっと広く感じられ、景色を気に入ってくれるかたもいらっしゃると聞いています。


Bar Cenacolo/チェナーコロ
Photo:吉川直希

仕事の仕方やアプローチは様々で、人によっても全く違います。
今の僕等の仕事の仕方が正解だとも思っていませんし、今後も少しずつ良い方向に変わってゆくものと思っています。今後もお客さまの要望にひらめきやアイデアを混ぜることで、望まれた以上のものをつくることができたらと思っています。

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