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2017-09-22

リノベーションのコツは素材を見ること!
ZUCCA、三宅一生の店舗デザイナー伊藤勝

SAHRE on

インテリアデザイナー
伊藤勝(イトウ マサル)さん

デザイナーズブランドの店舗や、飲食店や美容室といった幅広い空間を手がける伊藤さん。空間をデザインするプロ視点で、重要なことは何かを、代官山にある伊藤さんのオフィスにて話を伺った。日本のみならず、欧米やアジアなどグローバルに活躍する伊藤さんが語る、空間をデザインする上でのこだわりとは――

五感で感じられる空間

――これまで数々のインテリアを手がけてこられた中で、伊藤さんの中でこだわっている部分は何ですか?

インテリアの仕事においてこだわっているのは、“迎合”と“妥協”をしないということです。今の時代って、みんなが向いている方向が、どうしても一緒になりやすい。デザインって、ファインアートに対してコマーシャルアートと言われるように、ビジネスと切り離せないところがあります。だけど、みんな「売れる方向」に走りすぎていると思いますね。

――流行を抑えておくことについ意識がいきがちですよね。

そうなると個性が埋没したり、同じようなデザインの店が並んできたりします。そこで、いかに他と差別化していくか、スタイルを作っていくのかに、こだわっています。だけど、いくらこだわりだといっても、仕事として考えた場合、単なる「彫刻」にならないようにするのも重要で、そのバランスはとても意識していますね。


伊藤さんのオフィスの通路。伊藤さんのこだわりが随所に散りばめられている

――その他にこだわっている部分は何かありますか?

もうひとつ意識しているのは、空間が『五感で感じる』ものであるということです。

――目で見るだけではない?

視覚だけでは人は満足しない。例えば音楽や香り、そこが飲食店だったらロゴや器やメニュー、接客にも意見を取り入れてもらうとこで、はじめてその店の空間が出来上がると思っています。分かりやすい例で言えば、外見がかっこいいなというお店があったとして、もし店員さんの対応が悪ければ、その瞬間に全てが駄目になりますよね。どんなに美味しいお店でも、排水臭い店だったらもう来たくないと思うかもしれない。結局はトータルで、五感の全てで感じて良いと思えるような空間づくりをするのが大事だと思います。

予想外の毎日へ

――職業として、インテリアデザインの世界に興味を持ったのはいつごろですか?

実は、最初はファッション業界へ進みたいと思っていました。当時は、三宅一生さんや、川久保玲さん、山本耀司さんが、日本を代表して世界で活躍されているのを見て、とても憧れましたね。

――それがどうして、インテリアの世界に?

ファッションの世界には自分よりも前に、我こそはとしのぎを削る先輩たちが大勢いました。この激戦区で闘うのは大変だなと。その時に同時に興味を持ったのが、デザイナーズブランドの店舗自体でした。その空間も非常に刺激的だったんです。

――そこが興味のきっかけに?

興味を持つと同時に、もしかたらファッションではなく、空間デザインの側面からアプローチすれば、自分にもチャンスがあるかもしれないと思ったんです。

――みんなが同じ方向を向いている中で、敢えて違うところからアプローチしたと。

その通りです。そこから、所属した2つのデザイン事務所で楽しくもがむしゃらに修行し、29歳で独立しました。独立してからの数年は仕事を獲得するのにかなり苦労した時期もありました。

――そこから、転機になるような出来事はありましたか?

修行時期にお世話になった師匠からのご縁でZUCCAの店舗設計をさせていただいたのですが、それがきっかけで、憧れていた三宅一生さんの会社からも声をかけてもらえました。それ以降は毎日が予想外の連続だったりで、気づけば27年、ずっとインテリアデザインの仕事をしています。


エイの革を貼ったサーフボード

『古き良きもの』と『今の時代の空気感』を上手くミックスする

――同じ空間デザインでも、場所によって考え方は違ってきますか?

住宅・オフィスと商業スペースだと、目的がちょっと変わってきますね。住宅の場合は、簡単に買い換えられるようなものではないので、長く使えることが重要。一方、商業スペースは、早いところで3〜4年、長くても10年ぐらいで鮮度を保つためにリニューアルします。その点を見ても、アプローチの仕方が大きく変わってくるので、常にルールはなく、それぞれのプロジェクト独自の最善を意識する必要があります。

――HowScopeでは、良いものを大切に長く使っていくということを、提唱しているのですが、そこはどう思われますか?

最近は日本も、スクラップ&ビルドではなく、京都や鎌倉のように、古くて良い建物をうまくリノベーションする動きが盛んになっていますよね。だけど、単に古いものだけを愛でるのではなく、昔のよいものと現代のよいものを、上手く組み合わせてミックスすることが重要だと思います。

――新しいものと古いものを組み合わせるとは?

例えば、古民家の古い作りがいいと思っても、「ウォシュレットはつけたい」となることは珍しくありません。住まいの場合は特に、長く使えることを意識して、柔軟に考えることが大切です。パリとかミラノへ行けば、古い町並みで、外はすごいクラシックだけど、中はすごくモダンっていう建築がいっぱいあります。色々な国で仕事させてもらって、カルチャーショックも沢山経験しました。『日本の常識は世界の常識とは限らない』という事は、自分の中で常に問いかけています。ある程度世界標準でモノを考えていきませんかっていう話は、よくクライアントさんともしますね。


トイレに設置された巨大な羊のオブジェ

異種の風を巻き込みイノベートする

――こちらのオフィスは、いわゆるヴィンテージマンションですよね。

元々は外国人向けのレジデンスで、2ベッドルームというタイプの間取りでした。ベッドルームの1つはゲストが泊まる用で、お風呂も2つあるんです。

――こだわりの部分はどこでしょうか?

住宅仕様だったのを、事務所として使うために、機能面に重点を置いてリフォームしました。特に意識したのが、スタッフ一人ひとりが集中して没頭できるスペースです。

――かなり広いですよね。

それぞれが没頭しやすいように、広めに設計して独立した空間であるかのようにしたんです。他の事務所と比較したら個々のスペースが倍ぐらいありますね。それから、一番のお気に入りスペースは裏庭です。暖かい季節には月に2〜3回はいろんな人を呼んでバーベキューしています。

――かなり広い裏庭ですね。しかし、どうして会社でバーベキューを?

インテリアデザイナーは、元々引きこもりの人間が多いと思います。図面引いたりとか、内装をいじったりとか、今で言うオタク的な人間が集まっていますから、人とのコミュニケーションが苦手な人間が多いような気がします。

――そこでバーベキューで交流を図ると。

僕は、大阪という、日本の中でもラテンなノリの街で生まれ育ったのもあって、色んな人を巻き込んでいくのが好きなんです。みんなにもそれを感じてほしいなと思って、バーベキューをはじめました。

――社員の方以外も参加されるということですか?

インテリア業界だけじゃなくて、様々な業界の人間が集まってきます。普段、関係のなさそうな全く異なる業種の人間が集まるからこそ面白いものが生まれることもあるんですよ。実際にこの裏庭から、新しいプロジェクトが、次々と生まれていますね。

世界と戦うために、エッジを立てて喧嘩する

――空間をデザインするということで、大切なことはなんでしょうか?

空間を作る時には、いくつか制約があります。一つは人が作った「法律」で、もう一つは「重力」です。後者は考え方次第では、制約を壊せます。

――「重力」を壊す??

例えば、椅子って重力があるから床にあるものって決めつけているところがあります。だけど、例えば天井から吊り下げてブランコ状にしたっていいんですよ。制約を敢えて壊しにいくことは常に考えていますね。

――「法律」はどうでしょうか?

「法律」というのはやっかいです。例えば飲食店だと、厨房スペースはスケルトンに出来ません。それは「天井の配管で、油煙を含んだホコリがたまり不衛生」からだそうです。でも、それを言うなら店内全部じゃないの?と思いますよね。そんな旧態依然の考えに縛られて、デザインの可能性を壊されるのは、とてももったいない。

――常識に縛られることがよくないと。

自分で常識だと思っているものに、とらわれない方が面白いものができます。インテリアデザイナーや建築家っていうのは、あんまりルールに縛られると、単なる図面屋さんになるような気がします。だから、常識と言われるモノゴトには、常に疑問を持っていたいなと。

――流行に流されては駄目だというのにつながる話ですね。

ファッションの世界なら、コムデギャルソンの川久保さんがボロボロのセーターを出した時、ヨーロッパの人にとっては脅威だったわけです。完成させるのではなく、壊してきた。ああいったことを、今の日本のデザイナーはもっとやったほうがいいですよね。世界と戦うためには、多少エッジを立てて、喧嘩するつもりでいかないと駄目だなと。

リノベーションにしか出せない良さがある


伊藤さんが手掛けた、古民家をリノベーションしたプロジェクト“N_1221”

――再びリノベーションについてお聞きしますが、リノベーションにおいて、重要なことは何でしょうか?

まず「素材を見ること」です。例えば、日本で古くからある漆喰の壁は、“呼吸する壁”と言われています。自然素材でエコだし、室内の空調もバランスよく取れ、日本の風土に合った素材です。

ところが、最近は、ビニール製のクロスで壁を覆うのが常識になっている。だけど、クロスを剥いでみたら、裏はカビだらけだったりすることもある。本来、いいものというのは修理しながら、100年経っても使えるものです。だからこそ、漆喰の壁のように、いいものは残していくことも重要だと思います。

――時代が変わっても、良いものは変わらないと。

鉄でも、錆びてきたら、いい風合いになったタイミングで、クリアの防錆を塗布して、錆びの進行を止めるやりかたもある。だけど、その“いい風合い”というのは、新しいものではなかなか出来ないんですよ。

――新しくないからこその良さですね。

僕は解体現場に行くのが好きで、色んな発見があります。例えば、古い物件を解体する時に、風呂場のタイルを剥がすと、そこにグリッド状の模様が現れたりします。目地の部分ですね。あれを最初から作りたかったら、一回全部タイルを貼って、何年か置いてから剥がすっていう工程が必要なわけですよ。そうしたリノベーションにしか出せない良さがあるということで、それが「素材を見ること」です。その良さを知っておくことは、リノベーションをする上で、とても重要です。

空間デザインは、五感の全てを満足させることが重要だと語る伊藤さん。創造と懐古を組み入れ、斬新な空間を生み出すその眼差しの先には、驚きと笑顔が広がり続けている。
(取材・文 黒宮丈治)

ITO MASARU DESIGN PROJECT / SEI
http://www.itomasaru.com/

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