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2017-04-24

トイレの温故知新
厠(かわや)に花鳥風月を見出した男、作家・谷崎潤一郎

SAHRE on

一生のうち、約2年もの歳月を過ごす、トイレ。
そんなトイレに、人並みならぬ情熱や価値を見出した男、谷崎潤一郎。
当時、トイレは厠(かわや)と呼ばれており、昭和20年以前広く使われていた言葉である。「厠(かわや)」は数あるトイレの別名の中でも古く、『古事記』には、水の流れる溝の上に設けられていたことが示されており、川の流れの上に作った小屋の意味で、「川屋」が語源となっている説が有力とされている。 また、現代では基本的に住居の中に設置されてるが、昔は母屋のそばに設けるのが一般的だった。

厠は、日本の建築の中で最も風流にできている

谷崎潤一郎という作家をご存知だろうか。
明治末期から、昭和中期まで、戦中・戦後を生き抜き、国内外で評価を得た作家である。彼の作品はスキャンダラスなものから、純文学まで幅広い。そんな彼、谷崎潤一郎の著書に、日本人独特の影や闇に対する美意識について考察した1冊がある。

その名も「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」。

陰翳(いんえい)とは陰影、礼讃(らいさん)とは礼賛のことであり、敬い褒め称えるということ。つまり、現代風に言うなれば、「影ってマジすげーな」となる。

明治から昭和は、東洋の文化と西洋の文化が入り混じる時代。この時代の人々は、伝統的な日本家屋の中に、ストーブや電気ランプ、ガスなどのハイカラなものをいかにして配置するか夢中となっていた。その様子をみて谷崎氏は、日本の文化や「美」が失われてしまうことを惜しみ、書き下ろしたのが「陰翳礼讃」である。
そして谷崎氏は、本書の中で厠のことを「日本建築の中で最も風流に出来た場所」と称しているのである。

谷崎氏は、厠がトイレに変わりつつある時代に何を見たのか

――私は、京都や奈良の寺院に行って、昔風の、うすぐらい、そうしてしかも掃除の行き届いた厠へ案内される毎に、つくづく日本建築の有難みを感じる。茶の間もいゝにはいゝけれども、日本の厠は実に精神が休まるように出来ている。

(谷崎潤一郎|陰翳礼讃より抜粋)

現代においても、トイレは精神が休まる場所である。場合によっては、家庭の中で父が一人きりになれる唯一の場所となることもあるだろう。
谷崎氏は西洋(現代)の陶器で出来たタンク、便器、床は衛生面と実用性の面で評価をしつつも、「厠」独特の空間に価値を見出している。

――必ず母屋から離れて、青葉の匂や苔の匂のして来るような植え込みの陰に設けてあり、廊下を伝わって行くのであるが、そのうすぐらい光線の中にうずくまって、ほんのり明るい障子の反射を受けながら瞑想に浸り、または窓外の庭のけしきを眺める気持は、何とも云えない。漱石先生は毎朝便通に行かれることを一つの楽しみに教えられ、それは寧ろ生理的快感であると云われたそうだが、その快感を味わう上にも、閑寂な壁と、清楚な木目に囲まれて、眼に青空や青葉の色を見ることのできる日本の厠ほど、格好な場所はあるまい。

(谷崎潤一郎|陰翳礼讃より抜粋)

確かに、真っ白な壁に囲まれた、現代のトイレにはない体験である。
昔の人々は厠に行く、排泄をするという行為を、ある種のエンターテインメントとして楽しんでいたとも言える。

不浄を風流に変える、先人の知恵

――されば日本建築の中で、一番風流に出来ているのは厠であるとも云えなくはない。総ベてのものを詩化してしまう我らの先祖は、住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を、却って、雅致のある場所に変え、花鳥風月と結びつけて、なつかしい連想の中へ包むようにした。

(谷崎潤一郎|陰翳礼讃より抜粋)

なるほど、と言わざるをえない一節である。
トイレという不浄や不潔を連想させる場所を、西洋や現代では思いつかない発想である。

――照明にしろ、暖房にしろ、便器にしろ、文明の利器を取り入れるのに勿論意義はないけれども、それならそれで、なぜもう少しわれわれの習慣や趣味生活を重んじ、それに順応するように改良を加えないのであろうか。

(谷崎潤一郎|陰翳礼讃より抜粋)

谷崎氏の「陰翳礼讃」は、トイレや建築の話に留まらず、西洋のものを喜んで享受する現代を生きる私たちへの問題提起とも言える。 先人が厠に花鳥風月を見出したように、「HowScope」では、現代のわたしたちだからこそ生み出せるトイレの価値や体験のアレコレを、これからも発信していく。

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